共振するハビトゥス

主観が9割

キャスター櫻井翔のインタビューがすごい

 

平昌オリンピックが終わって1ヶ月以上が経ちました。そのなかでも男子フィギュアは私にとって特別な思い入れがありましたが、正直私の語彙力では説明しきれません。とりあえず演技を見てくれ。NHKYouTubeに載ってるから…。頼みます…。

 

今回は私がもう1つ楽しみにしていた、櫻井さんのインタビューについて改めて見てみます。発見がたくさんあって、こちらが学ぶところもたくさんありました。

 

まず、演技直後の羽生選手へのインタビューから。数問の質問の後、最後にこう質問します。

 

櫻井「被災地の皆さんもたくさん応援されてたと思います。ひと言お願いします。」

 

演技直後にこの質問か、と痺れたのですが、振り返ると様々な意図があったのだろうと。

まず1つ、選手はインタビュアーに質問されなければ話す機会がない、という点です。特に試合前後では選手が会見など話す機会を持っても、自分から好きなことを話せるわけではありません。インタビュアーが質問をし、それに答えるというコミュニケーションがあって初めて選手は発言ができます。

だからこそ、インタビュアーは視聴者が訊きたいことを聞く他に、選手が伝えたいメッセージを聞き出す役目も負っているのです。櫻井さんのこの質問はそれにあたるのではないかと思いました。

そして2点目、演技直後というタイミング。結果が出て最も注目度が高いであろうこのタイミングで質問をすることで、より多くの被災地の方々にメッセージが届く可能性が高くなります。

インタビュアーという役割を自覚した人だからこその質問だったのだな、と思いました。

 


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ちなみに、羽生選手は金メダリストという立場をもって櫻井さんに全オタクの思っていることを代弁してくれました。

 

みんな最高かよ…。

 

 

次に宇野選手のインタビュー。このインタビューは非常に面白かったです。

 

宇野「銀メダルというのも、自分が思っていたより実感がないです。」

櫻井「(ぐっと一瞬詰まる)…特別なものはないと?」

宇野「そうですね、今特別なものはないんですけれども、大きな舞台で練習してきたことが出せたことはすごく嬉しかったです。」

 

恐らく櫻井さんとしては想定していない返答。どのように質問を重ねて深堀りすべきか、咄嗟に返せなかった間が出ていてすごく櫻井さんだと思った瞬間でした。

そして後日、NEWS ZEROでのインタビューではこのようなやり取りがありました。

 

櫻井「メダルを獲ったんだ、銀メダルを獲ったんだという実感は、いかがですか?」

宇野「正直あんまりないですね、僕が小さい頃に思っていたオリンピックという、ものとはすごくかけ離れていて、特別なものだとすごく思っていたんですけれども、最後まで特別っていうものを感じなかったので、メダルを獲っても何か他の試合と特別な違いを感じられないです。」

櫻井「オリンピックはこう通過点の一つだと。」

櫻井「私で言うと、昔その目標設定してたんだけど、あんまり目標設定に意味なくなっちゃって、もはや目の前のことを1つ1つやることでしかその先の道って開けないな、みたいな感覚っていうのがあったんですね。宇野選手にとってはいかがですか?」

宇野「ほんとにその通りで、結構、まあ小さいときに周りがオリンピックって言うから、僕もオリンピックってすごい、って言ってたのもあるんですけど、それからちょっといろんなことを覚えて、オリンピックで良い演技をしたいと思っていたんですけど、いつしか、目の前の試合にどんどん集中していけば結果的に今に至るなって思いますね」

 

演技直後からこのインタビューまでの間に、櫻井さんが宇野選手の言葉をどう解釈するべきか、どう伝えるべきかを考え、その答えがこのインタビューに表れていました。宇野選手の少し聞いただけではわかりづらい言葉を、どう視聴者の目線まで下ろすか。そこで櫻井さんの選んだ最善の方法が「自分に例える」ということだったのだなと感動を覚えました。

櫻井さんが自分の解釈を話すことには2つ効果がありました。1つは選手の言葉を視聴者にわかりやすく提示すること、もう1つは選手自身が自分の現状を理解するためのヒントを提示することです。様々なインタビュアーの解釈を選手が聞くことで、「自分はこう思っていたのかもしれない」「こうは考えていなかったかも」と自分の感情を整理しフィードバックすることができます。しかし、その解釈にしても一般人が想像で語るものでは信頼性がありません。最も良いのは元アスリートの方が語る言葉だと思います。それでも、アイドルとしての櫻井さんが経験を話すことで、また違った視聴者層へ言葉が届く、また選手が櫻井さんを知っていることを前提として話すことで、選手が信頼をもって解釈を聞くことができるというメリットがあり、その役割を櫻井さん自身が自覚してインタビューをしているのだという印象を受けました。インタビューの文字起こしでも少し表れていますが、櫻井さんが自分の解釈を話すときは視聴者に聞かせるというより宇野選手との会話を意識した文体で話しています。そうすることで宇野選手のより深い言葉を引き出すのが目的だったのだろうと思います。

 

時間としては短いインタビューでしたが、興味深い点がたくさんありましたし、何より凄すぎた。ぜひ演技と共に見直してみてください。楽しいから……!