共振するハビトゥス

主観が9割

クラッシャー女中 2度目の正直

 

 

 

クラッシャー女中、まさか行けると思わなかったのですが、当日券を手にして2度目の観劇に行ってきました。同じ作品を2度見たのは初体験なのでドキドキ、しかも観劇前に悲劇喜劇で元のシナリオを読んだので事前準備も完璧です。

前回同様ネタバレもアリでまいります。

 

 

観劇して驚きました、こんなにも1度目と2度目で感じることが違うものか、と。

まずシナリオを読んだ効果、これは絶大でした。この作品の特性上初見ではわからなかったシーンの意味が解けていくような、そんな感覚。「この台詞はあとで効いてくるのか〜」など始終ニヤニヤしていました。そして、活字で書かれていた台詞が口頭で語られる感じが大変ゾクゾクします…! 特に冒頭のゆみこと義則の登場シーン。シナリオ上では「…」などの余白もなく、短い文の会話が連なるので、ポンポン良いテンポで読み進めてしまいがちなんですが……本編ではセリフの間合いが効いた印象的なシーンに。すごい。

途中、義則や静香など登場人物が大きい声を出す(または声を荒げる)シーンでも、シナリオでは「!」とか記号がついていない限り平坦に読んでしまうんですね。それがリズムと抑揚をつけて立ち上がってくると全然違う。演者さんと演出の力はすごい。

 

また、笑うポイントも印象的でした。1回目の観劇と今回ではお客さんの反応、特に笑いが起こる箇所が全く違いました。これは演出や演技が少しずつ変化しているからなのか私にはわからなかったのですが、何度も観劇を重ねたお客さんや初見のお客さんが混じってきた中でその日のお客さんによって反応が違うんだろうなと思いました。

シナリオの点でも笑うポイントに関しては面白くて、シナリオを読んでいて笑うところでもないと思っていた箇所で笑いが起きたり、逆にシナリオで面白いと感じた箇所がスルーされたり。間合いなのか何なのか、言葉の意味や感情がスッと入り込んでくるセリフもあればそうでないセリフもあって、ただ聞き逃してセリフがわからなくなっていたのではないのだなと2度目にして謎の確信を得ました。

 

そして前回、とある事情により義則に感情移入することができなかったのですが(なお大した理由ではない)、今回はそんな事情も一切忘れて素直に義則に感情移入することができました。はあ〜2度目行って良かった。

前回は席の位置の関係で、あまり細かい表情などは見えていませんでした。でも今回はよく表情も見え、細かい感情の機微が伺えたことが功を奏したのかもしれません。

才能豊かな父を持ち、両親から「何かしら才能を持っているはず」と期待されて育てられた義則。しかし当の義則は何でもこなせるけど秀でた才能を持っていたわけではなかった。その環境に反抗できるわけでもなく、かと言って開き直って甘えきることもできず、やりようのない感情を他人やいろいろなものに向けて発露することしかできない。

たぶん、義則は普通に愛されたかったのだろうなと思います。でも、愛を求めれば求めるほど、母も、周囲の人もどんどん狂っていってしまう。

そんな中で現れた静香という存在は、義則にとって本当に運命的で、特別だったのだろうと思います。義則が初めて静香を見つけるシーンで、義則が漏らす「嘘でしょ……」という言葉は、本当に運命的な人が現れるなんてという感嘆の他に、なんだかとても切ない響きを感じてしまい胸が苦しくなりました。

しかし、後に静香は、義則に復讐をするために義則の運命の人のフリをして近づいたノエルという女性だったことが判明します。そのときの義則の表情……。「復讐したいなら直接しにくれば良かったんじゃない?!」「僕は運命の人だって思っちゃったのに……」つらい。やっと、愛して愛される運命の相手を見つけたと思ったのに。もう見てるこっちがつらい。

その後、母が狂ってしまったのも、婚約者のフリをしたノエルが近づいたのも、全ては「義則を愛している」ゆみ子が仕掛けていたことが判明します。やっと愛してくれる女性が現れたけど、このゆみ子のせいで周りはどんどんクラッシュしているわけで。しかも、ゆみ子は義則にかけられたある言葉をきっかけにずっと義則を追い続けていたので、どう転んでも全ての原因は義則なのです。もうどうしたらいいのでしょう。つらい。終盤、義則に対する印象を登場人物たちが暴露していくくだりは、聞いていてこっちがつらくなってきました。そんなに言わなくてもいいじゃん……。うう。

 

というわけで、前回達成できなかった「義則に感情移入する」を達成することができまして、非常に満足しております。ありがとう、ありがとう。最後に、4列目という素晴らしい席に座ったらキャストの皆さんの声が全身に響いてきて「あ……全身……全身声に包まれている……」ととても幸せでした。楽しかったなぁ!